「パッキャオは異例ですよ」――近未来を示すモンスターの言葉 井上尚弥はどこまで上昇を続けるのか?【現地発】

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感謝されるべき戦場でベストの力を出そうとする姿

さらなる昇級を世間から求められている井上。しかし、本人はいたってクレバーに己を向かい合い続けている。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

 もちろんサイズがすべてではない。だが、階級を上げ続ければ、バンタム級でも大柄ではなかった井上にとって体躯の違いは無視できなくなる。フェザー級を見渡しても、172cmのWBC王者レイ・バルガス(メキシコ)、185cmのWBO同級王者ラファエル・エスピノサ(メキシコ)などとの対戦では身長面で大きなハンデを被る。

 163cmのIBF同級王者ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)にしても、身長ではむしろ井上が上回るが、身体の厚みではかなりの違いがあるはずだ。フェザー級に昇級の時期がきたら、勝敗だけではなく、こういった相手と戦うなかで、“モンスター”らしいベストのパフォーマンスを誇示できるかどうかが見どころになる。

 さらに1つ上のスーパーフェザー級までいくと、対戦相手の骨格にも別物感が出てくる。WBC王者オシャキー・フォスター(米国/身長173cm)、IBF王者ジョー・コルディナ(英国/175cm)といったあたりは同階級でも身体つきに重量感がある選手たちだ。WBO王者エマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)は身長こそ170cmだが、リーチは183cmもあり、計量後は身体が大きくなる印象もある。

 これらの王者たちとの対戦は“挑戦”という意味でスリリングであり、ファン垂涎の戦いになるに違いない。現状では想像でしかないが、傑出した力を持つ井上ならこれらすべての選手たちに勝っても誰も驚かない。昇級の過程で、多少の苦戦が増えてきても、彼は“未知の世界に挑み続けることこそが最高のパフォーマンス”と考えるようになっていくのかもしれない。

 しかし、あくまで研ぎ澄まされた技量のクオリティ、支配的な強さを重視するのであれば、答えは違ってくる。井上がある時期に、“これ以上は現実的ではない”と昇級に一線を引くことも考えられるのではないか。あくまでボクシングの質を追い求める職人気質ゆえに、ここまで完璧な強さを保ってきたのだとすれば、その選択に落胆すべきではない。自身の適正階級を見定め、決めた戦場でベストの力を出そうとする姿はむしろ感謝されるべきに違いない。

 飛ぶ鳥落とす勢いの井上のキャリアも現在、すでに後半に入っているのは間違いあるまい。今後の一戦ずつの内容とともに、自身とその陣営が階級選びという面でどんな選択をしていくのかも興味深い。

 実際の試合で限界が見えるまで上がり続けるか、それとも準備、トレーニングの過程でどこかで決断を下すか。井上が“怪物”であり続ける階級はどこまでなのか。その伝説を私たちはこれから目撃することになる。





[取材・文: 杉浦大介]

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