井上尚弥が見せた感情の赴くままの姿 ネリとの激闘で初ダウンを喫したからこそ見えた“モンスター”の魅力【現地発】
ネリとの派手な攻防を制した井上。日本列島を沸かせた激闘は世界でも高く評価された。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
“井上もやっぱり人間なんだな”という声が盛んに
ボクシング世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)と、世界2階級制覇王者の挑戦者ルイス・ネリ(メキシコ)が東京ドームで演じたダイナミックな激闘は、欧米のファン、そして関係者の間でも話題だった。
初回に井上がまさかのダウンを喫するも、2、5、6回に痛烈なダウンを奪い返した“モンスター”が破壊的なKO勝利――。そんな一戦を5月6日に日本で取材した筆者は、ほどなくしてアメリカに戻り、同10日(現地時間)にフィラデルフィア、同13日にニューヨークで開かれたボクシング関係の記者会見に出席した。やはりというべきか、そこでも多くの関係者が井上対ネリの話をしていたのが印象的だった。
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「エキサイティングな興行だったね。トーキョードームはいい雰囲気に見えたし、メインは素晴らしい内容の戦いだったと思う」
英興行大手『Matchroom Sportの大物プロモーター、エディ・ハーン氏もそう述べ、日本の熱気に感銘を受けた様子だった。
序盤からダウンの応酬、そして最後に訪れる壮絶なKO劇。さらに勧善懲悪の要素(欧米でのネリに“問題児”の認識は薄いが、日本ボクシング界とネリの過去の因縁は知られている)があったことも含め、理想的なエンターテイメントだったという評価なのだろう。
試合直後に米老舗専門誌『The RING』が発表したパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングでも1位に復帰した結果が示す通り、初のダウンを奪われたとしても、井上の力量に対する評価は下がっていない。
完璧であるのもいいが、いわゆる“セカンドチャンス”も同等に大切にするのがアメリカ社会。ダウンを喫した後、すぐに適応した井上が、数倍返しで巻き返した意味は大きかった。「これまで証明されなかった一面を見せた」という声も少なくなく、ネリ戦の内容と結果は様々な意味で好意的に捉えられている感がある。
これまでとは違う一面を示したのは確かでも、キャリア最高級の出来でなかったのも、また事実でもある。フィラデルフィア在住の実力派トレーナー、スティーブン・エドワーズ氏は、井上対ネリ戦の最中に、自身のSNSにこう記していた。
「イノウエはディフェンス面で少々不注意になっている。リベンジという要素がゆえにより感情的になっているように思える」
実際に入場の段階から“入れ込み過ぎ”の兆候が見られた。試合開始直後のスイングも力みがあるように感じられた。実に34年ぶりの東京ドーム興行というビッグステージ、さらに挑発を繰り返したネリへの感情といった要素が影響していたのだろう。それゆえに、ネリにパンチを引っ掛けられた形の初回のダウンは衝撃的ではあっても、腰を抜かすほどのサプライズだったわけではなかった。この点に関して、現場では“井上もやっぱり人間なんだな”という声が盛んに聞かれた。