「皇帝ヒョードル」日本ラストファイトをRIZIN CEO榊原氏が語る、PRIDE時代の思い出
—PRIDEからアメリカ、世界へと活躍の場を移しました
「ヒョードルという選手は、強さとミステリアスなキャラクター性があり、それでいて試合にハズレがない。チャンピオンでありながら真っ向勝負するので、圧倒的に勝つか、負ける時はあっけなく負ける。だからこそ、アメリカに行ってもロシア人でありながらすごく評価をされている選手です。それはやはり、彼のファイトが圧倒におもしろくて強く、かつベビー級の選手であるということが、世界でもウケたのだと思います。PRIDEがアメリカ・ラスベガスに初進出したのが2006年の10月で、その時のメインイベントがロシア出身のヒョードルと、アメリカ出身のマーク・コールマンのリマッチでした。アメリカのファンからヒョードルに対してブーイングが起こるかなと思っていたのですが、驚くことにアメリカ人がヒョードル・コールをしているんですよ。当時は今みたいにインターネットで簡単に情報を入手できないのに、ヒョードルの強さを認め熱狂し、声援を送ってくれている。母国での一戦なのに、ヒョードルにボコボコにされているコールマンとしてはやりきれないですよね(苦笑)」。
—今年の6月に行われた堀口恭司とダリオン・コールドウェルのBellator世界バンタム級タイトルマッチの時も、最初はUSAコールでしたが途中から自国のコールドウェルに対してブーイングが飛んでいました
「アメリカのファンと日本のファンは格闘技を見る目が肥えています。いいものを見抜く力が養われている。アメリカのファンも、映画の『ビヨンド・ザ・マット』じゃないけれど、リング上で起こることだけではないドラマとか、試合の意義を見るようになっているように感じます。もちろん、勝ったか負けたかという結果が全てというところもあります。激しくハードに人が人の顔を殴り合うのですから、非日常的で人を興奮させる刺激物ではありますけれど、でもその魅力だけではこのスポーツはメジャースポーツになれないと思っています。そこを掘り下げて行くことが、僕らとしてもテーマだと考えています」。
—格闘技を通して伝えたいことはどんなことですか?
「格闘技の魅力は、どっちが強くてどっちが弱いだけではなく、一人の男同士の人間ドラマ。そこのドラマに魅力があるということをアメリカのファンに届けたいと思って、それこそヒョードルとコールマンをマッチメイクしました。コールマンはアメリカという誇りを胸に、絶対的王者・皇帝ヒョードルにアメリカの地で立ち向かい、それを娘たちが見守るというストーリーを描いていたんですけどね。実際は観客がヒョードルに魅せられてしまうという、予定外のストーリーになりました(苦笑)。でも、すごくドラマチックな試合でしたね。試合後、コールマンは負けて血だらけなのに、リング上に娘を上げてハグをしたんです。アメリカの記者からは『何で娘をリングにあげるんだ。子供たちに見せるべきではない』と言われましたけど、僕らとしてはまさにそれが見せたかったものでもあります。選手たちそれぞれに家族がいて、守るべきもの、愛すべきものがいる。ただただ無慈悲に殴り合うのではなく、戦う姿を見て欲しかった。戦う父親の姿はかっこいいって」。