元フィギュアスケート・中野友加里さんの「サードキャリア」~引退、テレビ局就職、結婚・出産、再び氷上の世界へ~
−−スケート人生が仕事の役に立ったということですね。競技の中で一番影響を受けたことはどんなことですか?
佐藤信夫コーチには競技人生を終えるまでの最後の6年間みてもらっていました。スケートの教えだけでなく、スケートを終えた後のことも考えてアドバイスをしてくださいました。私はすごくせっかちな性格なので、「あなたの場合は『急がば回れ』。急いでいる時こそ、冷静になって考えて、物事をゆっくりやりなさい」とよく言われました。あとは、「目標に向かって頑張るという日々が大事なので、必ず目標を持ち続けなさい」と言われ続けてきましたね。演技前には「あなたは今まですごく練習を積んできたのだからできる」と言って励ましてくれていました。そういう言葉が、スケートをやめた後も励みになっていました。
−−佐藤コーチになってから変わったことはありますか?
それまでは365日毎日練習をしていましたが、佐藤コーチになってからは週に一回は休むようになりました。一日でも休むと取り戻すのに二日かかると思っていたので、休むことが怖かったです。それまで一度も休んだことがないのに、「休め」と言われた時に、「なんで休まないといけないんだ」と先生(佐藤コーチ)に噛み付いたことがありました。先生は「こんな子、はじめてだ」と困惑されていたようです(苦笑)。根気強く、「休むことによって、自分の心も体もリフレッシュできて、次また頑張ろうという気持ちになれるから、休むことは大切」と説得されて、渋々休むようになりました。映画を見たり、ショッピングをしたり、好きなことをやればいいと言われても、結局「この曲は来シーズン使えそう」「この舞台の役者さんの表現力は見習いたいな」とか、「最近はこういう服が流行っているなら、今度の衣装に取り入れようかな」とか、結局スケートのことばかり考えちゃって。休んだかどうかわからないですけど、勉強にはなったと思います。
−−佐藤コーチの印象的な言葉はありますか?
「無駄な練習をしない」と言われました。例えば、「5個で500円のリンゴではなく、1個500円のリンゴを見せてくれ」と言われたり…。「雑なジャンプをたくさん見せてくれなくてもいいから、高級品の美しいジャンプを見せてくれ」ということでした。要は無駄な練習をするなということですね。ダラダラとただ回数をこなしていくだけならやめなさいと。短期間に集中して、しっかりとした密度の濃い練習をしろと言われていました。そういうのって、勉強とかも同じなのかなって思いました。あとは、「人間、ボーッとして成長することもあるから、ボーッとする時間も大事。何もしない時間を作ることも大切」と言われました。佐藤コーチにみてもらうようになって、休むことって重要だなと思うようになりました。ずっと動き続けているとどっかで倒れちゃうし、リフレッシュも必要。スケートをやっている時は休むことに対して不安でしたけど、仕事を始めてから、「休みたいな」と思うことが増えました(苦笑)。特に今は育児をしていて、休むことの重要性を痛感しています。以前、下の子供が入院した時に、家に帰ってきて一息ついたときに急に足が上がらなくなってしまって。階段を上ることもできないくらいに。ずっと気を張って動き続けていたんだなと感じました。主人にも「休憩することも大切」「頑張りすぎても疲れるだけ」と言われています。
−−いつか自身が指導者として教えていきたいという思いはありますか?
それはないですね。私がコーチに向いてないと思った理由が、「種まきをしたなら、翌日にはきれいに花が咲いていてほしい」と思うタイプなのです(苦笑)。しかも、私はコツコツと毎日練習をしてサボらない、真面目気質だったので、他の人だと「なんで練習しないんだろう?」って思っちゃうタイプ。その考えを選手や生徒に押し付けてしまう可能性があるので、コーチという選択肢はないと思っていました。振付師という選択肢もありましたけど、クリエイティブに富んだ、芸術性は私には残念ながらないので(苦笑)。私は不器用で、形にはまった生き方しかできない人間なので、コーチにも向いていないし、振付師にも向いていないんです。でも、また違う形でフィギュアスケートと関わっていって、フイギュアスケートの魅力をたくさん伝えていきたいですね。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
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