2019年流行語大賞ノミネート! 「サブスク元年」を振り返る
「動的なマッチング」の精度を高めるテクノロジー
杉山 シェアエコに加えて、最近のサブスクサービスを見ていて感じるのは、参入企業のITの強さですね。
井出 たしかに、月額制で洋服が借りられる「エアークローゼット」も、洋服を借りたユーザーからのフィードバックをすべて即座にデータに反映させているとお伺いしました。
杉山 そういう動き見ていると、商品やサービスに対する根本的な変化を感じますね。商品であれば、従来はいいモノを作り、単価を高く設定して、今月何件売るというのがひとつのモデルだったわけです。モノ時代は購入時点で消費者にマッチしていればそれでいいというものでした。
サブスクの場合、それをどう的確にマッチさせるかという精度だけでなく、相手が変化すれば、その変化に合わせてビジネス側も変化しなくてはなりません。動的なマッチングを支えるテクノロジーがないと成り立たないのではないかと思っています。
井出 動的なマッチングを支えるテクノロジー、ですか。
杉山 はい。たとえば、消費者が転職して環境が変わったり、結婚して生活状況が変わったり。企業側から見れば、そうした利用形態に影響を与える変化を、事前に察知するのはなかなか難しいのではないか、と。
シェアダインの場合、そこに強みがあるんじゃないかと思っているんです。出張シェフが実際にユーザー宅にお邪魔して、直接コミュニケーションするなかで「私、今度結婚するんです」といった生の情報を得ることができますよね。
このリアルの接点というのは、非常に重要です。しかも、その裏側でシステムが走っていて、データを分析し、何が最適かAIが判断する。これらが組み合わさって全体のユーザー体験を作っているのが新しく、とても2019年らしいサブスクかなって。
だから、いつも「注目のサブスクを教えてください」を聞かれると、シェアダインの話をするわけです(笑)。
井出 ありがとうございます(笑)。
まさに杉山さんのおっしゃる通りで、シェアダインのサービスはまず、サイトで出張サービスを予約するというデジタルな体験から始まりますが、シェフがユーザーのご自宅を訪問して始まるリアルな体験がとても重要だと考えています。
さらにご利用された方にフィードバックしていただいたデータを分析して、マッチングの精度を高めたり、ユーザーの変化に対応していくことに当初から非常に力を入れてきました。そこがシェアダインの大きな特徴にもなっているんです。
杉山 世の中でサブスクがこれだけ取り上げられるなかで、顧客の本質的な課題を解決し続けるために何をやればいいのかをどれだけ真剣に考えているか。井出さんたちはそこを突き詰めて考えていますよね。
継続率ももちろん大切ですが、それが先にあるのではなく、問題解決には何が必要なのかを考え抜いた結果として、どのようなコミュニケーションが重要なのか。出張シェフと利用者の会話を通じて得られたフィードバックを、システム側にデータとして取り込むことで、非常にいい循環ができていると思っています。
サブスクと最も相性が良いのは「衣食住」の領域
井出 最近のサブスクの鍵は、本質的な課題にどれだけ向き合えているかと見ていらっしゃるわけですね。バッグや洋服のファッション系のサブスクサービスの話が出ましたが、それ以外に注目している分野はありますか?
杉山 今年たくさん出てきたのは、「subsclife」のような家具のサブスクですね。家具もシェアエコの延長にあるのかなと思っています。サブスクといってもモノがモノだけに頻繁に移動させられるものではないですが、引越や家具処分といった問題を解決しようとしています。
ただ、家具に限ったことではないのですが、サブスクを掲げながら、実態としては分割払いやリースだというサービスが数多く出てきているのも現状です。手軽に始められるというイメージはあっても、サブスクによって問題解決を図るという本来の仕組みがないものが紛れています。
そうしたなかで、私が面白いなと思うのは、衣食住の分野でサブスク同士が結びつく例ですね。
たとえば、「subsclife」 は、OYOが運営する賃貸住宅型サービス「OYO LIFE」と連動しています。家具家電を含めて、自由に期間を決めて住み替えできる。これも、ライフスタイルに合わせて自由に住みたいという方のためのサブスクサービスと言えるでしょう。
衣食住の分野と定額サービスというのは、とても相性がいいと思っています。いくつかの企業が組み合わさって、1つのサービスになっていくような動きには注目しています。衣食住のサブスクが結びつくことで、トータルとして生活そのものが定額化されていくこともあるかもしれません。
井出 生活の固定費が見える、新しい仕組みですね。
杉山 そうですね。衣食住は生きていくうえでなくてはならないものであり、生活の質に直結しますから、そこの不便を解消するというのは非常に大きな価値があるのではないでしょうか。