大橋会長が語る井上尚弥の心技体「思考法編」~人間を成長させてくれる「黄金の時間」~
強い相手を見つけた時の喜び
井上が高校2年で経験した敗戦も、後の彼を形成する上で大きな転機だったはずです。最近、テレビ番組にも出ていましたが、当時、林田太郎という天才ボクサーがいました。全日本アマチュア選手権の決勝で井上が彼に敗れた時、私から「林田に勝ちたいのなら、八重樫と多くスパーリングをしたほうが良い」とアドバイスをすると、頻繁にジムに来るようになりました。
何度もグローブを交えることで次第に八重樫を翻弄する回数も増え、自信をつけた井上は、その後、林田に勝利する訳ですが、ここから一段と強さが増したと私は見ています。
この時から、すでにボクシングが生活の一部となっており、強くなることが何より楽しいと感じていた井上を見て再認識させられたことがあります。
人間を成長させてくれる「黄金の時間」
それは「黄金の時間」は、やはり人間を成長させてくれるのだな、ということ。
学生時代に生活の一部を犠牲にしてでも好きなことに打ち込む事を、私はそのように表現しています。
友達とたくさん遊びたい等、若い時期は誘惑が多い。そこをグッと耐え、本当に好きなこと、将来的に必要だと感じた物事に全力を注ぐ。学生なら、それは勉強であり、部活動になるでしょう。
この多感な時期に本気で何かを得ようと努力した人間には、数年後に必ず何かしらの形での成果が待っています。逆に、誘惑に負けた人間は「何であの時やらなかったんだろう……」と絶対に後悔する。
これは、誰もが経験する紛れもない事実。井上にとって、それがボクシングだった訳です。
今でもその姿勢は変わりません。試合の1か月半前になると、ジムから近い横浜市内のホテルにたった一人で泊まり、最後の追い込みをかける。有名だろうと無名だろうと、井上はスタンスを一切変えず、練習から試合までフルスロットルなのです。