セパ下克上Vを象徴する「ドラフト最下位指名の逆襲」と「ブービー男の覚醒」
史上初の珍事だ。2021年の優勝争いは、シーズン最終盤までもつれる大接戦の末、ヤクルトが6年ぶり、オリックスが25年ぶりの栄冠を勝ちとった。前年最下位のチームが両リーグで優勝するのは、長いプロ野球の歴史で初めて。最下位からの逆襲が、自身の境遇とも重なる象徴的な選手が両球団にいる。
ヤクルトの中継ぎで7勝28ホールドとフル回転した今野龍太(26)は、13年ドラフト全体(育成を除く)の「最下位指名選手」だった。1度は解雇も経験した苦労人が優勝に欠かせない戦力として「ドラフト下克上」を果たすとは、誰が予想できただろうか。
今野がプロに入団したのは楽天だった。宮城の公立高で部員11人しかいない岩出山のエース。3年夏の宮城県大会初戦でノーヒットノーランを達成し、スカウトの目にとまった。13年ドラフト9位指名、支配下選手では全体76人中76番目だった。当然、契約金1500万円、年俸440万円と上位選手とは比較にならないほど安く、地域密着を目指す球団の「地元枠」という見方もあったほどだ。
プロの世界は甘くない。6年間で15試合の登板にとどまり、初勝利を挙げた19年のオフに戦力外通告を受けた。拾ってくれたのが、ヤクルトだった。背水の150キロ右腕は「何かを変えないと、またクビになるだけ」と腹をくくって球種を増やし、新天地1年目に20試合に登板。今季は60試合以上を任され、高津監督も「大きく成長した」と信頼。みちのくで失った自信を「高津再生工場」で取り戻し、最下位チームを優勝へと押し上げる原動力になった。
オリックスで今季もっともブレークした野手といえば、愛称「ラオウ」こと杉本裕太郎外野手(30)だ。15年ドラフト10位の指名は、支配下選手全体で88人中87番目だった。入団後、2軍でくすぶっていた「ブービー指名」男が突然32本塁打をかっ飛ばし、年齢的に厳しい30歳を超えて覚醒するとは、誰も思わなかっただろう。
徳島商-青山学院大を経てJR西日本からオリックス入りし、契約金2000万、年俸600万円だった。同じ年に1位指名された吉田正尚は大学時代のチームメートで学年が2つ下。吉田は契約金1億円、年俸1500万円の高条件にたがわぬ活躍で、1年目から6年連続2ケタ本塁打に、首位打者など複数のタイトルを獲得。チームの顔になるだけでなく、侍ジャパンでも中心選手となった後輩の姿はまぶしかった。