スペインで5シーズン目を戦い終えた乾貴士と、バルセロナの黄金期を築いたレジェンド、カルラス・プジョルが特別対談
乾貴士がエイバルの地を踏むちょうど1年前、スペインのサッカー史に名を刻んだひとりのディフェンダーが現役引退を決意した。
カルラス・プジョル・サルフォカーダ。
生涯にわたりバルセロナのユニフォームを着続け、ピッチの上ではいつだって120%を出しきった。相手フォワードと激しくぶつかりあい、幾千の手厳しいタックルを見舞ってきた彼だけれど、そのプレーの奥には常にフェアな精神が宿っていた。どこまでも熱く、どこまでもクリーンな闘将だった。
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そんなプジョルの姿を、まだ小学生だった乾は遠く日本からテレビ画面越しに眺めていた。ポジションは全く違うけれど、なぜだろう、その真っ直ぐな姿勢に不思議とひかれた。
プジョルの存在は、乾がバルサとスペインを好きになった理由のひとつだった。
やがて時がたち、2020年の乾は32歳を迎えた。32歳というのはプジョルが南アフリカの地でワールドカップを掲げ、世界の頂点に立った年齢でもある。
2019-2020シーズンを終えた翌日の朝、乾はバルセロナへと向かっていた。
幼い頃、目に焼き付けた闘将の姿を思い浮かべる。あふれでる質問の数々が胸に渦巻いていた。
−悔いの残るシーズンを経て挑む6年目の戦い−
プジョルとの対談前日、ビジャレアルの地で乾はシーズンを終えた。
ベティスからエイバルに戻った昨季、乾は買い戻してくれたクラブに恩返しをするという強い気持ちで挑んだ。29試合に出場し2ゴール4アシストという結果を残し、エイバルの残留に貢献した。
しかし、その胸にあったのは残留を決めた満足感だけでなかった。
「もっとチームに貢献したかった。特に攻撃面で得点に絡むプレーをしないといけない」
それでも、スペインでの彼の足跡は今では138試合という数字になりこの地に刻まれている。いま目指すのは日本人選手として前人未踏のスペイン1部リーグ200試合だ。
プジョルというスペインを知り尽くしたレジェンドに話を聞くことは、これからの自分を考える意味でも大きなイベントだった。
−それぞれの思い。いざ対面へ−
待ち合わせの場所はバルセロナのバイカルカ地区にある静かなスタジオだった。グエル公園にほど近い、緑豊かな落ち着いたエリアだ。
少し早く着いた乾は、小さなカフェテリアに入りコーヒーを注文した。その表情に、どことなく緊張が漂う。
トルティーリャ・フランセサ(フランス風オムレツ)のサンドイッチを頬張りながら、聞き方や内容を振り返る。胸の高鳴りが聞こえてくるようだった。
その頃、プジョルもそう遠くない場所で朝のコーヒーを飲んでいた。トレーニングはいまも欠かさないのだろう。体型もしっかりと維持されており、あの巻き髪も昔のままだ。
店員に写真撮影を頼まれ、プジョルは肩を組んで気軽に応じた。引退して6年が経ったけれど、今でもこの街のレジェンドだ。
カウンターに立ったプジョルは乾について思いを巡らせていた。
「わざわざバルセロナまで会いにきてくれるということで、彼のプレーを改めて見かえしてみたんだ」と彼は言う。
「印象としては、やはり技術的にとても優れた選手だ。カンプノウでのバルサ戦の2ゴールはもちろん、それ以外にエイバルで見せるプレーも含めてね」
約束の時間がやってくる。プジョルはスタジオまでの小道を歩きながら、最後まで乾のキャリアを思い返していた。