「天心という名前を忘れれば、あの内容になる」――天心戦で井上拓真を突き動かした兄・尚弥の“言葉” 乗り越えた先に待っていた井岡一翔との“審判の日”
井岡と対峙した拓真。試合に向けた調整も万全だ(C)Lemino/SECOND CAREER/NAOKI FUKUDA
次なる相手は、名誉の殿堂入りも有力視される最大の難敵
そして、試合後のインタビューで真っ先に拓真のパフォーマンスについて問われた際の“モンスター”の分析はさすがに見事なものだった。
「(那須川の動きの良さは)1、2ラウンドはちょっと自分の想定外でしたけど、ただ全体を通せば、まあ考えていた範囲内ですね。あの1、2ラウンドのボクシングを12ラウンド通じてできないというのが天心のキャリアの浅さであり、たぶん相手陣営の弱みでもあったのでしょう。これがあと10戦、15戦とキャリアを積む時間があるのだとすれば、1、2ラウンドのボクシングをしっかりと12ラウンドできるようなメンタルとボクシングの厚みができれば、もう手のつけられない選手になると思います」
その尚弥の言葉は、那須川のポテンシャルの高さを認めつつ、現時点では世界最高レベルではないと指摘するものだった。それを根拠に、事前に「絶対に勝てるから」と尚弥自身が、弟に那須川との早期対戦を勧めていた。逆に言えば、それは兄の拓真の能力に対する信頼の裏返しでもあったのだろう。
「(那須川は)今後、世界王者になる選手であり、それだけの実力はあるとしても、(今は)“一流”であり、“スペシャル”ではない。(拓真には)まず名前を取り除き、そこから来る緊張感や気負いなしに臨もうと伝えたんです。まず、那須川天心という名前を忘れれば、あの内容になると思いました」
それはつまり、弟の拓真は“一流”のボクサーには勝てる選手であること、スペシャル”に近い位置にいることを示す言葉でもあったはずだ。
東京ドームのアンダーカードで拓真は再び王者としての真価を問われる。前戦の相手だった那須川はボクサーとしては明らかに経験不足だったが、この週末に戦う井岡は引退後の名誉の殿堂入りも有力視されるほどのレジュメを誇る。バンタム級での実績こそ1戦のみとはいえ、拓真にとってこれまでで最大の難敵に違いない。
「天心との試合での出来を思い返し、やはり拓真が優位なのではないかと思う。とはいえ、井岡の技術と経験は決して侮られるべきではない」
米老舗誌『The Ring Magazine』のトム・グレイ記者はそう展望していたが、実際にこの試合は息もつかせぬ技術戦になることが有力だ。そんな攻防を制し、那須川、井岡という2大ビッグネームを連破となれば、拓真の王者としてのステイタスはさらに大きく跳ね上がる。その時には、正真正銘な“スペシャル”なチャンピオンとしてより多くの人に認められることになるのだろう。
5月2日は、拓真にとっての新たな“審判の日”。そのパフォーマンスとともに、自分自身のスーパーファイトの前に、控え室のモニターで拓真対井岡戦もチェックするであろう兄・尚弥が試合後、弟の戦いをどう評価してくれるかが今から楽しみでもある。
[取材・文:杉浦大介]
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