【UFC280】メインイベント級のカードがズラリ「UFC始まって以来の命題のひとつの決着となる」

タグ: , , , , , 2022/10/18

(写真左より)シャールズ・オリヴェイラ、イスラム・マカチェフ、アルジャメイン・スターリング、TJ・ディラショー/Getty Images

 日本時間の10月23日(日)、アラブ首長国連邦・アブダビのエティハド・アリーナで『UFC280』が開催される。メインイベントは、シャールズ・オリヴェイラvsイスラム・マカチェフのライト級王座決定戦。さらに現王者アルジャメイン・スターリングが、元王者TJ・ディラショーを迎え撃つバンタム級タイトルマッチも組まれている。

この2試合の見どころを“世界のTK”髙阪剛に語ってもらった。

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シャールズ・オリヴェイラ/Getty Images

――『UFC280』アブダビ大会はすごいカードが揃いましたね!
「えらいこっちゃですね(笑)。メインイベント級のカードがズラリと並んでいるというね」

――その中でメインイベントはシャールズ・オリヴェイラvsイスラム・マカチェフのライト級王座決定戦、まさに“頂上対決”と呼ぶにふさわしい一戦が実現します。
「オリヴェイラが11連勝中、マカチェフが10連勝中。どちらも負ける姿が想像できないですよね。そこをあえて全体的な試合の作りとかテクニック的なところで較べてみると、打撃に関してはオリヴェイラのほうがテクニック的にも豊富だし、首相撲からのヒザ蹴りや至近距離のヒジなどMMAで有効な打撃も含めて、正直、上かなと思うんですよ」

――オリヴェイラは、元ベラトール王者のマイケル・チャンドラーもKOしていますし、試合を重ねるごとに打撃が向上していますよね。
「その打撃が伸びてきているのにはひとつ理由があると思っていて。もともとオリヴェイラは寝技が得意で、寝技の展開が好きであるがゆえに、前半からガンガン極めにいって後半バテるというシーンが数年前まではあったんですよね。その反省もあって、近年は全体的な試合作りとして打撃にシフトしていったんじゃないかと思うんですよ」

――トップ柔術家が打撃をひとつの軸にしていくようになった、と。
「それによって、打撃にプラスして組んでからの寝技という必勝パターンができあがっていった。たとえば、打撃でプレッシャーをかけて、相手が嫌がって頭を下げたところにフロントチョークだったりとか。あとは組んできてくれたら、そのままバックを獲って後ろからチョークで絞めるとか、打撃を軸にしつつ最終的に極めて勝つというかたちですね。ただ、その前段階である打撃がかなり向上しているので、打撃だけでもKOを奪えるくらいの実力を備えたのが、今の状態だと思います」

――最強のグラップラーがKOできる打撃を身につけて、まさに鬼に金棒ですね。
「だからオリヴェイラの強さの根底にあるものは、やはり寝技なんですよ。“寝技になれば絶対に勝てる”という自信があるからこそ、打撃も思い切っていける。組まれたり、テイクダウンされても“下から極めればいい”という余裕があるから、近い距離で積極的に打撃戦ができるんだと思います」

——一方、マカチェフのほうはいかがですか?
「マカチェフもグラップラーですけど、オリヴェイラの柔術系の寝技とは違い、マカチェフは盟友ハビブ・ヌルマゴメドフと同じタイプですよね。組んで寝かせたらパウンドを落として、相手が嫌がって横を向いたらバックを獲って首を絞めるとか。どちらかと言うとフィジカル全開で、しかもスタミナは最終ラウンドまでもつというのが、彼らの寝技の特徴ですよね」

――柔術系のオイヴェイラが“柔”の寝技だとしたら、マカチェフは“剛”の寝技というか。
「そしてマカチェフは、打撃に関しては“仕留めるための打撃”というより、あくまでも“組むための打撃”という位置づけで練習してる、そんな匂いがするんですよ。だからおそらくマカチェフは打撃のやり合いは望んでいない。なので必然的に寝技のやり合いという形になったら、これはこれですごく見応えがある試合になると思いますね」

――柔術ベースとサンボベースの異なる寝技のぶつかり合いになりますね。
「だからこれは進化した最新版の異種格闘技戦ですよ。両者ともにMMAにおけるトップのグラップラーでありながら、まったく種類の異なる組み技のルーツを持った者同士がタイトルを賭けて戦うという。これは寝技好きの人間からすると、たまらないマッチアップですね」

――MMA黎明期からブラジリアン柔術とロシアのサンボは天敵みたいなライバル関係でしたけど、最新の頂上対決というか。
「そこがすごく興味深いですね。同じ“寝技”でも両者はやりたいことが全然違うんですよ。オリヴェイラはどちらかというとスクランブルを駆使するタイプ。足関節を獲るわ、首を獲るわ、腕を獲るわと、狙うところをバンバン変えて、対処しきれなくなった相手を極める感じですよね。逆にマカチェフのほうはそれをやらせず、潰して潰して制圧する寝技なので」





イスラム・マカチェフ/Getty Images

――自ら動いて翻弄するオリヴェイラと、動きを封じて制圧するマカチェフ。まさに矛と盾ですね。
「だからこそ“どっちが強いの?”という興味が尽きないですよね。ブラジリアン柔術とロシアのサンボ、どっちが上なのかというUFC始まって以来の命題のひとつの決着をつけようということなので、ものすごいことが起こるんじゃないかと思います」

――かつてのPRIDEヘビー級頂上対決、エメリヤーエンコ・ヒョードルvsアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラのように、マカチェフがパウンドで圧倒することも考えられますしね。
「そういうことですよね。オリヴェイラがいろいろ仕掛けようとするんですけど、マカチェフが“関係ねえよ!”ってフィジカルでボコボコにする展開もあるかもしれないし。逆にオリヴェイラが、そのパウンドをうまくすり抜けてバックを奪うかもしれない」

――オリヴェイラは劣勢になっても冷静に切り返していく技術と気持ちの強さを持ち合わせていますしね。
「逆にマカチェフは自分が上から攻めて制圧しているときはすごく強いんですけど、下からちょっとずらされたり、すり抜ける系の動きをやられたときに対応が一瞬遅れるときがあって。そこで隙が生まれて相手に立たれてしまうシーンもこれまで見られたんです。
オリヴェイラはグラウンドになればそういうところもバンバン突いてくるだろうし、なおかつ“際”のところでヒジ打ちも入れてくるから、マカチェフもまた打撃を気にしながら自分の寝技をやらなきゃいけないし、際の部分も気をつけなきゃいけない。だから、細かい部分まで相当ヒヤヒヤする寝技が観れるんじゃないかと思いますね」

――あと、ひとつ懸念されるのはマカチェフは10連勝中ですけど、マッチメイクの関係でトップランカーとの対戦経験があまりないんですよね。そこがトップランカーを根こそぎ倒してきたオリヴェイラとの大きな違いかな、と。
「それはありますね。修羅場をくぐってきた数が違うという。やはり一瞬の状況判断ひとつとっても、トップランカーは他の選手ができない動きや攻撃もしてくるんですよ。だから実際、オリヴェイラはジャスティン・ゲイジーやダスティン・ポワリエにダウンを奪われていますけど、そのピンチを乗り越えて勝ち続けてきたので。マカチェフに対して、“俺はこれだけの修羅場をくぐり抜けてきたぞ。お前はどうなんだ?”というところで、精神的なマウントを取る部分もあると思います。
一方、マカチェフはタイトルコンテンダーとの戦いこそないものの、この10連勝中にピンチらしいピンチもほとんどないので、そこに幻想がありますよね。だから、精神的なプレッシャーの掛け合いという意味からも、戦いはすでに始まっている。非常に楽しみな一戦です」

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