現役アスリートの現場から「頼れるのは食材の持つ力」だけとは

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スポーツ選手にはドーピング検査がある


 日常生活の中で不調を抱えた時。例えば頭が痛くなった時は頭痛薬を、風邪をひいたかな、熱があるかなと思った時は、病院へ行ったり、風邪薬を飲んだ経験を誰もが持っているのではないでしょうか。

 しかし、スポーツ選手の場合は、ドーピング・コントロールにより「薬」を使用することが禁じられ、風邪をひいた場合でも、チームドクターが処方してくださるドーピングに関与しない薬のみが服用できます。サッカーの場合、漢方薬なども使用できず、口にするものや体に塗布するもの(サプリメント、整髪料、育毛剤、目薬、歯磨き粉、栄養剤、一般に市販されている清涼飲料水なども)には、細心の注意を払わなければなりません。

 現役生活19年目になる夫は、特に慎重。例えをあげるなら、スーパーフードのような積極的なコンディショニングケアであったり、新しい何かを、食事管理に取り入れたいと、私が提案したとします。絶対的に自然由来のもので「これなら安心だろう」と、誰もが思うものだったとしても、過去に口にしたことが無いものに関しては、夫本人が、所属チームに確認するといった入念な作業を必ず行います。たとえ、チームから了承を得たとしても、夫自身がしっくりとこないものは、結局、使用するに至らないといった経験が、これまでの現役生活には星の数ほどあります。

アスリートは食べ物の力を借りて生きている

 こうした「薬の力」に頼ることが出来ない環境下で、唯一頼れるのが食べ物の力でした。私たち人間は誰もが、食べなければ生きていくことができない上に、アスリートは更に、ハードな練習や試合により、エネルギー消費量やビタミンやミネラルの損失も多く、その日の疲労をいかにして、翌日に持ち越さないようにするかが肝となります。

 人間が自らで作り出すことが出来ない食べ物に含まれている栄養素や、植物が外敵から身を守るため、体いっぱいに溜め込んでいるとてつもないパワー(植物化学成分=機能性成分)を借り、これらを積極的に体内に取り込み抗酸化作用を得ることで、健やかな心身を保つ努力をしています。

大怪我の連続だった当時の日記から

 私が本格的に栄養学と向き合うようになったのは、2004年に、夫が2度目の前十字靭帯を断裂した時。4度にも渡る大怪我、そして、全身麻酔による手術を経験しました。

 ちょうどこの頃から、毎食の食事記録、夫の自宅での様子を綴り続けて、もう14年です。今となれば日記や記録の継続こそ、かけがえのない財産となり、アスリート生活の土台を支え、未来を担う子供たちに繋ぐ、栄光の架橋になるとさえ思っています。

 以下、2006年の夫の椎間板ヘルニア手術明けの自身の日記から、当時、リハビリ食として用いていたレシピなども含めて、僭越ながらご紹介させていただきます。

(ここから)
「立っている時、歩いている時は全く痛みが無い。座ったり、仰向けになると、傷口や腰周りの筋肉にはりがあるそう。ドクターに聞いてみたところ、今までは右に傾きながら生活していた為、右の筋肉が収縮し、左の筋肉には負荷がかかりにくくなっていたものが、手術をして真っ直ぐにしたことにより、負荷のかかっていなかった左側の筋肉にも、本来の負荷がかかるようになった為、筋肉がそれに慣れる為のはりだとか。また、神経管の修復作用にも多少の時間を要するとのこと。(テンピュールの枕を手でぎゅっと押すと中に入り込み、手を放すと枕と手は触れてはいないけれど、枕がもとの形に戻るのに多少の時間を要するのと同じ原理だとか。)」

「カツオのピリ辛煮」

●カツオのお刺身   200g
●だし汁(骨つき肉を8時間煮込んだコラーゲンスープ)   4分の1カップ
●カレー粉   小2分の1
●醤油   大1
●みりん   大2分の1
●酒   大4分の1
●オクラ   2本

 作り方は、全ての食材を小鍋に入れてさっと煮るだけ。かつおはリハビリ中に適した抗炎症食材。カレー粉などのスパイス類は「食べる薬」と呼ばれ、痛みや炎症に効果が。付け合せのおくらは、たんぱく質の吸収を高める効果もあり、食材を合わせています。

2006/05/23
「ホームケア」

 先週から40分近くランニングをするようになり、ボールを蹴り始めたせいか、ここ2、3日、腰のかみ合わせがあまり良くない。練習から帰宅した夫の様子が何となくおかしかったので話を聴いてみた。リハビリ組みを除き、チームは水曜までオフなので、ドクターに会えるのは木曜以降。手術後からMRIを撮っていなかったこともあり、経過を見る為にも、オフ明けにでもMRIを撮って貰おう。ただのリバウンドであれば様子を見て練習メニューを落とした方がいいね、というような話をした。
一方、ホームケアとして、何か応急処置的なことはないかと考え、慢性腰痛に良いとされる温湿布や、腰、下半身のスポーツアロママッザージを施してみることに。今回使用したオイルはニールズヤードのスイートアーモンド。

 これは主に、全身のトリートメントの時に使用。ビタミンD、E、ミネラルなども含み、比較的使いやすい植物性油脂。精油は小さな分子構造をしている上、親油性。(油によく溶ける)真皮に達した精油は毛細血管やリンパ管に入り、血液を介して全身の器官、組織へと広がります。また、嗅覚や(嗅覚から直接大脳辺縁系を介する経路。大脳辺縁系に直接伝わるルートは、五感の中で唯一嗅覚のみ)呼気から(肺の中にある肺胞から吸収される経路)も吸収され、マッサージによる相乗効果で非常に優れた効果が期待できるとのこと。

 腰痛に効果的な精油の中から使用したのは、ラベンダー、ジュニパー、レモングラス、ユーカリの4種類。まず始めに、精油を使った温湿布で、10分間腰を保温。(ラベンダー、ジュニパー、ユーカリをそれぞれ1滴ずつ)その間にトリートメントオイルを配合。

 アロマ環境協会の希釈濃度は1パーセント以下ということで、30mlのアーモンドオイルに、3種類の精油を合計6滴になるように入れました。(ジュニパー、ユーカリ、レモングラス)腰痛の場合、腰へのトリートメントだけではなく、下半身全体に行うと効果的で、頸部から太もも、ふくらはぎ、足首から下の各部の緊張を緩め、リラックスさせることに意識し、ゆっくり時間をかけてマッサージしました。(ここまで)

意味のないことは何ひとつとして無い

 この後、アロマテラピーやハーブ(植物療法)を本格的に掘り下げて学びました。(メカニズム、抽出部位、化学構造、健康学、心理学、生理解剖学など)学校にも通い(アロマテラピーはみなとみらいニールズヤードレメディーズ校にてアロマテラピーインストラクターを、ハーブはグリーンフラスコの林真一郎先生のもとで、ハーバルセラピストを、施術技術はプレミナセラピストスクールにて神崎貴子先生のもと、スポーツアロマトレーナーの資格を取得しました)専門知識を得たことが、食べ物の香りが、心身に及ぼす影響を意識しながら生活するようになったきっかけであり、また、現在の食に対しての包括的な思考に繋がりました。

 何事も積み重ね。意味のないことは何ひとつとして無いと思っています。

・合わせて読みたい→
食べることを意識すれば、運命はいとも簡単に変わっていく(https://cocokara-next.com/food_and_diet/be-conscious-that-eat-change-the-fate/)


※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

[文:山瀬理恵子]

山瀬 理恵子(やませ・りえこ)

1977年9月16日生まれ。
http://yamasefamily.com/rieko-yamase
小学校教諭を経て、サッカー元日本代表で現在アビスパ福岡所属の現役Jリーガー山瀬功治と結婚。(今季プロ19年目。18年連続ゴールで三浦知良選手に並ぶJ歴代2位記録を樹立)京都新聞朝刊にて3年間のスポーツ栄養レシピ・コラム連載を書籍化した著書「アス飯レシピ」を京都新聞出版より2017年8月に発売。(1ヶ月で重版決定)キューピーマヨネーズ料理グランプリ2015京都府代表。人気レシピサイトクックパッドに公式キッチンを持つ。
サッカーダイジェストテクニカルにてスポーツ栄養レシピ・コラム連載2年。PHP研究所巻頭料理カラー2年。サッカー協会、株式会社アスリートフードマイスター、京都サンガF.C、アビスパ福岡アカデミー、小中高、大学他各教育機関・Jr.アスリート保護者及び企業にて栄養学講演、調理実習多数開催。
2017年より味の明太子ふくや、味の兵四郎、テレビ西日本&西日本スポーツ新聞料理コーナー「山瀬理恵子のアス飯」レギュラーを担当。2018年から北海道十勝郡浦幌町ふるさと大使に任命。京都新聞読者情報誌「きらっと!京滋」5月号より新連載。福岡県筑紫女学園大学にて、人間科学部大西良准教授及び『LIKKE』大学生らとアス飯子ども食堂サポート。福岡サンパレスホテル坂本憲治総料理長とアス飯弁当コラボ販売。

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