「パッキャオは異例ですよ」――近未来を示すモンスターの言葉 井上尚弥はどこまで上昇を続けるのか?【現地発】

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パッキャオとは異なる井上の発想

井上が「異例」と認めるパッキャオ。アジア人では史上最高ボクサーと言われるこの男は、8階級をのし上がった。(C)Getty Images

 階級制というボクシングの本質を考えれば、両雄の対戦は本来、荒唐無稽な話のはずだ。しかし、すでにスーパーフェザー、ライト、スーパーライト級の3階級を制し、29戦全勝(27KO)のデービス(米国)と井上のドリームマッチを希望する声はアメリカでも一部のファンの間から依然として出続けている。

 主に黒人層のファンからこういった声が噴出する背景には、極東の地で高評価を得る軽量級ボクサーへのやっかみ(裏を返せばリスペクト)が存在するのだろう。一方、井上の実力をすでに認める層からは、“冒険マッチに勝って真の意味でパッキャオに比肩してほしい”という想いが込められているのではないか。いずれにしても、デービス戦が実現することがあれば、井上のキャリア最大級の注目、話題を呼ぶのは間違いない。

 ただ、これまでの本人の言葉を総合する限り、井上は自由奔放に階級を飛び越えたパッキャオと同じような考え方はしていない。2022年夏、筆者がバンタム級にいた彼を大橋ジムに訪ねてインタビューした際、こう述べていたのを思い出す。

「パッキャオは異例ですよ。パフォーマンスを落としてまで、階級を上げて挑戦したいという気持ちはないです。自分のベストが出せる階級でNo.1でいたい。そこで強さを発揮すればいいと思っています。ボクシングは階級制のスポーツなので、自分が上に上がっていって、力が発揮できなかったとして、そこで自分が弱いとは思わないだろうし。あくまで自分のベストの階級で戦い続けたいです」





 こんな言葉を振り返ると、井上が自身のキャリア、そして一戦一戦に求めているものが見えてくる。それは闇雲にビッグネームとの戦いを模索するのではなく、かといって敗北を恐れているのでもない。追い求めているのはシンプルに、自身が満足できる最高のパフォーマンス。それができると感じられる階級でない限り、たとえ勝機があろうと、大金が稼げようと、昇級は考えないのであろう。

「無闇には階級は上げないです。お金が目的ではなく、大事なのはベストのパフォーマンスだということ。今はまだフェザー級を目指すうえでのトレーニングもしていないですし、それより上の階級は考えられないです」

 試合に至る前に、まず納得できるだけの準備、トレーニングを重んじる。そういった本人のポリシーを知れば、複数階級をジャンプしての冒険マッチが頭にないのは明白だ。将来に予測を巡らせても、現在30歳の井上が現実的な戦場として考えるのはあるいは1つ上のフェザー級くらいまでだったとしても不思議はない。

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