ネリが番狂わせを起こすとすれば――東京D決戦で断然優位の井上尚弥に潜む“危険性”を米記者に訊く【現地発】

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ホバシニアン戦でも果敢に打ちに出て、競り勝ったネリ。(C)Getty Images

「ネリが番狂わせを起こそうと思えば、攻め抜くしかない」

 実際、2019年まで戦ったバンタム級時代のネリは、今より躍動感があり、ダイナミックな攻めを見せていた印象があった。前述通り、スーパーバンタム級に上げて以降もKO率は高いものの、動きはややもっさりとしており、以前のようにパンチが縦横無尽に伸びてくるイメージはない。よって井上が圧倒的に優位なわけだが、逆に言えば、今戦に向けて体重調整も順調だという29歳がよりシャープな状態に仕上げてきた場合、怖さが出てくるのかもしれない。

 また、ネリが中間距離で振り回すフックの連打は独特の軌道を描いて飛んでくる。ディフェンス力にも秀でる井上が頻繁に被弾する姿は想像できないとしても、撃ち合いの中で1発でも良い角度で浴びたら危険なのも確かである。

 いずれにしても、ネリは打ち合いに挑むしかない。もともと好戦的なタイプだけに、ほぼ間違いなくそうしてくる。米紙『Los Angeles Times』のディラン・ヘルナンデス記者は、こう述べていた。

「ネリが番狂わせを起こそうと思えば、攻め抜くしかない。強引に入っていって、パンチを当てる。理想的なのは耳の上か何かにパンチを当て、イノウエのバランスを崩させるような展開。そういう形で攻め続ければ、チャンスはなくはないと思う」

 こうしてみると、歴史的なアップセットを可能にする条件はいくつか見えてくる。まずはネリが可能な限りのコンディションを整え、バンタム級で連戦を重ねていた最盛期の迫力と切れ味をスーパーバンタム級でも得ること。そして、序盤から積極的に攻め、井上にダメージを与えるか、リズムを崩すだけのパンチをヒットすること。その2つが揃った時、試合は予想外の方向に進む危険性が出てくる。

 繰り返すが、正直、その可能性が高いとはとても思えない。ドノバン記者が示唆していた通り、スーパーバンタム転級後のネリがバンタム級時代の勢いを取り戻せるかにはかなり疑問符がつく。さらに冒頭で述べた通り、今戦での井上はかなりの集中力を高めてくると予想され、展開に影響を与えるような一撃を不用意にもらうとは考え難い。

 それゆえに、“番狂わせのチャンス”を探してくれたドノバン、ヘルナンデス両記者も最終的には「やはりイノウエのKO勝ちだ」と断言していたことは、ハッキリと記しておきたい。ただ、どんなに可能性が低く感じられても、ネリには井上の前戦の相手だったマーロン・タパレス(フィリピン)にはなかったいわゆる“パンチャーズチャンス”がある。

 それだけに、最後まで目の離せないタイトル戦にはなるのだろう。だからこそ、この試合は世界中の多くのファン、関係者に期待感を抱かせているのである。





[取材・文:杉浦大介]

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