ドラフト候補と呼ぶのは早計か 6年間のブランクを埋め、六大学ベストナインに輝いた慶大・清原正吾の“現在地”
高校野球を経験していない選手のプロ入りの事例は――
ベストナインという分かりやすい結果を残したことで「プロ入りもあるのではないか」という声も出てきている。だが、現実的に考えると、その可能性は極めて低いというのが現状ではないだろうか。
結果を残したと言っても1シーズンのみ。さらに打率も.269とそこまで高いわけではなく、ホームランも0本に終わっている。来る秋にさらなる進化を見せて、これまでのリーグ記録である1シーズン7本塁打を更新するような活躍を見せれば、話は変わってくるかもしれないが、春のリーグ戦終了時点で「ドラフト候補」として評価するのは早計と言わざるを得ない。
ちなみに過去を振り返ってみると、高校野球を経験せずにプロ入りしたという例は存在している。
直近では2019年に名古屋大から中日に育成ドラフト1位で指名された松田亘哲も高校時代はバレーボール部に所属。硬式野球を始めたのは大学からである。また、現在ロッテで活躍している和田康士朗は高校入学当初は陸上部に所属していた。ただ、和田に関しては、その後に硬式のクラブチームである都幾川倶楽部でプレーしており、清原や松田とは少し違ったルートと言えるだろう。
古くは近年まで楽天でスカウト部長も務めていた長島哲郎(元ロッテ)も仙台育英では書道部に所属。東北福祉大進学後に本格的に野球を始めて大活躍し、1982年のドラフト3位で指名されたという例もある。
長島は少し極端な例ではある。だが、松田はバレーボール、和田は陸上という異なる競技を経験しており、清原もバレーボールとアメリカンフットボールでプレーしたことは決してマイナスではないはずだ。
少し形は変わるが、今年の全日本大学野球選手権の2回戦で中部学院大を相手に完封勝利をマークした中京大の安藤利玖(4年・安城南)は大学1年夏に膝を怪我して一度学生コーチとなり、打撃投手を務めていた3年秋に練習で投げていたボールが首脳陣の目に留まって選手に復帰したという異色の経歴で話題となっている。こういった例が出てくると、一度、野球を離れた選手の一線級への復帰という後押しにもなるはずだ。
今後、清原自身がどんな決断を下すかはまだ分からない。しかし、今春の活躍がアマチュア球界に一つの光明を差し込んだことは間違いないだろう。
[文:西尾典文]
【著者プロフィール】
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。
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