「健康なナルシズム」と「不健康なナルシズム」とは
不健康なナルシズムのタイプ
不健康なナルシズムには、傲慢なタイプと超過敏なタイプがあります。
傲慢なタイプは、自分はみんなの中心にいて注目を集めるのが当然で、人々はしもべであり、自分の意思を実現するための道具であり、当然の如く過剰な称賛を求め、自分の才能や実績を誇示したりします。
特権意識があって、限りない成功や権力にとらわれると同時に、けっこう嫉妬深い場合もあります。
しかし、彼らは非常にエネルギッシュですから、普通の人がなしえないような偉業を達成したりすることがあります。
「モスキート・コースト」という映画の中のハリソン・フォード演じる主人公などは、傲慢なナルシズムの例です。
元々は傲慢なタイプだった人が、壁にぶち当たると、超過敏なタイプのナルシズムになることがあります。
超過敏なタイプは、周りの視線や評価を過剰に気にします。「僕のこと、こんなふうに思っていないよね」と自分の評価を過度に確かめようとしたり、過度にびくびくしたり、「私は、そんなつもりじゃなかったの」と、自分がしてしまった「いきちがい」の理由を一生けん命説明しようとします。
周りの評価を気にしたり、「いきちがい」の理由づけをするといったことは、だれでもすることなのですが、超過敏なナルシズムはそれが度を過ごしています。
「欲望という名の列車」の主人公ブランチは、傲慢なタイプから超過敏なタイプへの移行の例と言えます。映画は、ビビアン・リーの主演作品が有名ですが、ジェシカ・ラング版のブランチもなかなかのもので、真実味があります。
不健康なナルシズムの人たちは、自分自身に対する無条件の絶対的な信頼を育てる機会が少なく、根底に深い空虚感を感じています。その空虚感を見つめることに対する恐怖があるんです。
だから、彼らの過剰な行為は、彼らが恐怖から逃れるための必死な試みなんだろうと思います。
健康なナルシズムも、不健康なナルシズムも、根っこは同じです。
共に、自分を無条件に愛したいという欲求、そして、無条件に人から受け入れられ、愛されたいという欲求です。
自分を無条件に愛することは、他人から無条件に愛されるという経験を通して、自分のものになっていきます。
これは、ミラーリング欲求と呼ばれ、人間の基本的な欲求です。
ミラーリング欲求は、生まれたときからある欲求で、多くの場合、少なくとも生まれた直後は、「生まれてきてくれてありがとう」という無条件の愛情を受けます。その記憶は、言葉では残っていないかもしれませんが、漠然とした温かい記憶として残っているでしょう。
不健康なナルシズムも根っこは同じミラーリング欲求なのですが、その欲求が十分に満たされてこなかったと言えます。生まれた直後に受け取ったであろう無条件の愛も、もはや記憶の奥底に隠れてしまい、見えなくなっているでしょう。
また、不幸にも、生まれた直後にも無条件の愛を受けなかった人もいるかもしれません。
近年注目を集めている自己心理学では、自己は人生のいつの時点でも回復が可能であるとしています。
ですから、不健康なナルシズムの人たちもどこかで無条件の愛を実感できれば、その人のミラーリング欲求は満たされることになります。そうなれば、不健康なナルシズムの人たちの中にあった空虚感や、それに伴う、根源的な恐怖や不安から解放され、健康なナルシズムへと変容していきます。
向後善之(ハートコンシェルジュ・カウンセラー)
[記事提供:カウンセリングのハートコンシェルジュ(株)(https://www.heartc.com/)]
※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。