元ソフトバンク絶対エース・攝津正の「心のマネジメント術」~やらないよりやる!~
野球はいいかなと考えた時期も
塚越 そこまで気持ちを強く持てた要因としてある程度大人になってからプロ入りしたということがアドバンテージになった感じなんですね。プロに入る前に試行錯誤があって、そこからプロ入りするにあたっては、18歳のときに入団するのとでは気持ちの切り替えとかは全然違いますよね。ちなみにプロに入る前の心境はどんな感じだったんでしょうか?
攝津 けっこう不安な部分が多かったかなと思いますね。なかなかドラフトにかからずプロ入りできない時期が5年くらいあり、『もう野球はいいかな』と考えた時期もありました。そういう時期があったからこそ、プロに入ってから良かったのかなといつも思いますね。
塚越 入団前にもう野球はいいやと、折れそうになったこともあったんですね。そのときはどんな風にご自身の心を折り合いをつけたりモチベーションを保ったりしていたんでしょうか?
攝津 30歳が近くなってくると人生の転換期と言うか、いつまでも野球をやっていられないというか。それだったら社会人野球をやっていたので、社業に専念して足元を固める方がいいのかなといったことも常に考えるようになりました。
塚越 野球は野球で、どの形であれ続けていくって方向で整えようとしていたと言う感じですか?
攝津 いや、逆です。スパッと野球を辞めて、次のことを始めようと言う感じでした。
塚越 そこまで考えていたんですね。
攝津 そうですね。もういいかなって思っていた時期だったんで。
塚越 そのときプレーに気持ちの面は影響していましたか?
攝津 なかったですね。ある程度社会人でもずっと成績も出していましたし、一方でこれだけ成績を残してもプロにはなれないって言うんだったら、もう野球はいいかなっていう考えでしたね。
塚越 やっぱり、どんな段階でも徹底してプレーには影響しないんですね。そこはなぜなんでしょう?
攝津 そういうことがあっても、いざやるっていったときに、あんまりそう言うことを考えずに、パッと切り替えられるんですよね。自然と集中できるというか。モヤモヤはしているんですが、野球が始まってしまえば、一切そういう感情は忘れるというか、夢中になったらそっちにいってしまうんですよね。
塚越 練習中やトレーニング中はどうなるんですかね?
攝津 トレーニング中はどちらかというと、モヤモヤしていると思います(笑い)。モヤモヤしながらトレーニングはやりつつ、試合が始まったら試合に集中する感じでした。
塚越 モヤモヤしていると、やるべきトレーニングとか、日常のことも「やりたくない」と思う人も多いんですが、そうならないのはなぜでしょうか。
攝津 基本的に、前の日や当日の朝に、『今日はこれをやる!』って最初のうちに決めているんですよ。その中で、やりたくないなと思う時もあります。でもそのときは、その次の日のやらなかった分を取り返すという考えは常にありました。やっぱり、できなかったことを取り戻したいんですよ。それは小さい時からやっていたなという気はします。
塚越 プロに行けないなら今日のトレーニングは無駄とかそういう考えはなかったんですね。
攝津 考えないですね。どちらかというと、目の前のことをこなしていく気持ちが強かったと思います。大きい目標はあるんですが、日常ではそこは見ずに、目の前のことをやろうとしていましたね。
塚越 どんな状況でやるべきことはやるという姿勢は攝津さんの強さですよね。
(自身の白血病を公言して、話題となっている攝津氏に次回は病気との向き合い方について聞きます)
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。
塚越友子(つかこし・ともこ)
社会学修士号(社会心理学)教育学修士号(臨床心理学)。公認心理師・臨床心理士・産業カウンセラー。
コミュニケーション論の研究から興味を持った広報・PRの仕事に従事する中で過労から内蔵疾患を発症、治療生活でうつ病を発症する。キャリアチェンジを余儀なくされ、身体・精神の健康とキャリアのバランスをとること、働く人の精神的不適応と家庭のサポートについて興味を持ち、産業カウンセラー資格取得後、2008年に東京中央カウンセリングを開業。
現在は、2017年より東北大学大学院博士課程後期に在学し、自殺予防研究特に、希死念慮を抱えている人に対する家族のサポート方法について研究を行いつつ、個人カウンセリングも行っている。
攝津正(せっつ・ただし)
1982年宮城生まれ。2008年のドラフト5位でJR東日本からソフトバンクホークスに入団。中継ぎとして結果を残し、先発に転向。12年には17勝を挙げ、沢村賞に輝く。12年から5年連続開幕投手を務めるなどチームに大きく貢献。白血病を発症したことで現在は病気との向き合い方についても積極的に発信している。YouTubeチャンネル「攝津SETTSU#50」。