「グレイシー一族に恨まれ続けた」元PRIDE戦士のコロナ禍で前進するためのポジティブ対談 『すべてのことに意味がある』
どんなにつらくてもゼロではない
山本) 私はよく取材などで「ゼロではない」ということを話すんですね。
母は亡くなっていて、今では弟のKIDまで亡くなってしまったんですけど、私がどんなに頑張っても、腕立てを1000回やったとしてもこの二人に会うことはもうない。つまりゼロですよね。
でも、例えばチャンピオンシップを戦う時に自分のほうが相手よりも力が劣るだとか、絶対に勝ち目がないだとか言われようが、それに比べればゼロじゃないんです。
たとえそれが1%や0.1%であってもゼロじゃないんです。
まったく可能性がないゼロに比べれば、「これだけチャンスがある」
そう思うとすごく頑張れる。それは自分がゼロを知っているから、可能性のあることに希望が持てるんですね。
何か大きな壁があるといつも思い出すんです。そして「大丈夫、行け」って思える。このことがすごく自分を強くさせてくれるんです。
二人から力をもらっているというか。
大山) 美憂さんの試合で印象に残るのが、KID選手ががんで亡くなった後の試合(RIZIN.13 アンディ・ウィン戦2018.9)で、ものすごくメンタルを作るのが大変だったと思うんですが、あの試合に出場した理由とかお聞きできますか?
山本) そうですね。これは、そのひとつ前の試合(RIZIN.11 石岡沙織戦2018.7)の話なんですけど、当時はKIDの治療でみんなでグアムに移っていたんですね。
その時、英語ができることもあり、私が病院の送り迎えをしたりと、KIDの身の回りの世話をしていて、試合の3週間前ぐらいに、「やっぱりノリ(KID)のほうが大事だし、この試合はやめようと思う」とKIDに言ったんです。
その時KIDは「うん、わかった」といった感じだったんですが、その夜に「やっぱ試合出て」と。「これは美憂の勝てる試合だから勝ち癖をつけてほしい」と。
それまで私はずっと負け続けていたんですが、ここで「勝って勝ち癖をつけてほしい」と言うんですね。
それで、「わかった」と言って、試合に出て勝ったら、KIDがすごく喜んでくれたんです。
その時、KIDが日本では病院で寝たきりだったけれど、グアムに来て歩けるぐらいに元気になっていたこともあって、
「私が勝てばきっとKIDも元気になってくれる」
「もっと勝ち癖をつけてKIDを安心させてあげないと」
と思って、無理やりRIZINの方に頼み込んで組んでもらったのが、9月のあの試合なんです。
でも、試合の2週間ぐらい前にKIDは亡くなってしまって……。
KIDが亡くなったのは朝だったんですが、その日の夜は試合に向けたボクシングの練習が入っていて、その時、「あっ、ここで行かないとKIDに怒られるし、彼が言っていた勝ち癖がつけられない」と思って練習に行ったんです。そこからまたスイッチが入りましたね。
「これだけ練習できるんだから、試合もきっとできる、約束したんだから」
って。
大山) 山本家って家族の愛とか絆の深さを教えてくれますね。一番大切なものを教えてくれる。勝っても負けても同じ愛があるというのか、すごいですね。
山本) 家族の力とか言葉は私を動かす大きな原動力になっています。