グレイシー一族に恨まれ、倍返しされた格闘家の波乱万丈すぎる戦い~失神、骨折、網膜剥離~
――網膜剥離で約1年の長期離脱。復帰戦はグレイシー一族のヘンゾ・グレイシーでした
大山:復帰戦だったので、とにかく勝つことが周りの人への恩返しだと思って戦略的に戦いました。最初から判定狙いで。そうしたら、そんな消極的な試合はおもしろくないので、判定で勝ったのに大バッシングを浴びました。ファンからもマスコミからも、関係者まで。プロの洗礼を浴びましたね。やっぱり、ファンを熱くすることもプロの仕事でもあるので。ファンが見たいのはこういう戦いじゃない、みんな生き様を見たがっているんだなって教えてもらいました。そこからは「勝っても負けても真っ向勝負」が僕のテーマになりました。
――負けるよりも辛い経験だった
大山:勝ったのに喜んでもらえないことが辛かったですね。元々僕は格闘技から感動をもらって、それでファンからファイターになったのに、感動や勇気を与えられないということがすごくショックでした。あの時は本当に落ち込んだし、いろんな人から誹謗中傷を浴びて、心療内科にも通っていました。体が震えてくるようになって、鬱の薬とか睡眠薬とかを飲んでいましたね。
――そんな状態なのに、3ヶ月後にはグレイシー一族からの刺客で、ヘンゾの弟であるハイアン・グレイシーと戦うことに
大山:「一族を背負う」という凄まじさを感じました。人生で初めて一対一族だったので、怖かったですね。ファンの目にも応えないといけないし、グレイシーにも勝たないといけないという二重のプレッシャーがあって、あの試合が一番怖かった。入場の煽り映像もグレイシー寄りだったんですよ。「大山を倒せ」「大山を潰せ」って。あの時は初めて会場のファンすらも敵のような気がして、すごく心細いままリングに上がったのを覚えています。
――残念ながら試合は一本負け、さらには右腕骨折という凄惨な結果でした
大山:試合で腕を折られて、勝敗が決まった後も蹴られましたね。中指を立てられながら罵声を浴びせられて、唾を吐かれて、一通りされましたね。腕を折られながらバキバキバキって音が聞こえましたけど、ギブアップするつもりはなかったので、「この後は左手で戦わなければ」と考えていたことを覚えています。
――屈辱的な負け方のようにも思えますが、当時はどんな気持ちだったのでしょうか?
大山:負けたんだから仕方ないという思いがありましたね。怒りはなかったです。負けた自分が悪いんだって。