フジ退社発表の田中大貴アナ イチロー、福留から学んだ仕事への考え方

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逃げたい、やめたいとずっと思っていました


 華やかな舞台の裏側でストレスと向き合っている。お茶の間でおなじみのフジテレビの田中大貴アナウンサー(37)。スポーツの生中継、情報番組の生放送、終了時間が決まっていない収録と多忙な日々を送っている。「ポジティブな人間に思われますが局面局面の臨場感をどう伝えるか、よりいいものを作らなければいけないストレスは当然あります。自分がうまくできたからよかったでなく、選手や共演者、制作陣としっかり同じ方向で視聴者に伝えられたか。自己採点ができない仕事なのでストレスがたまるのは当たり前なんです」。スムーズな進行が当たり前に求められ、ミスが目立つ仕事の重圧は計り知れない。田中アナウンサーはストレスとどう向き合い、乗り越えているのだろうか。

 慶大4年春に六大学リーグで本塁打王に輝くなどプロ野球のドラフト候補でもあったが、アナウンサーへの道を選択。入社して2年間は視聴者にうまく言葉で伝えられないもどかしさに、「逃げたい、やめたいとずっと思っていました」とストレスに悩まされた。仕事への心構えを整理できたのは情報番組「とくダネ!」で共に仕事をしていた小倉智昭フリーアナウンサー(70)からの助言が大きかった。「野球に非常に似ている。試合に出るのが出演者。それまでの舞台を作ってくれるのが裏方の人間。勝負する神宮球場の舞台が生放送の舞台かもしれない。次の日に視聴率が出れば得点と同じだという感覚で挑むようにうまく発想を転換すればいい。今までやってきたことと同じだよ」。大きな目標を立てるとたどり着く過程でミスが生じる。野球で目の前のアウトを1つずつ取るように、「会社までいかにたどり着けるか、衣装を着替えて打ち合わせにいくまでどういう気持ちの整え方をするか、制作陣と打ち合わせて生放送で読む原稿読みをする」と小さな目標を1つずつクリアしていくことを心掛けた。その方法論に自信が持てたのが09年に米国・セントルイスで開催されたメジャーリーグのオールスターだった。イチロー外野手(44)が囲み取材で「なぜこれだけのスーパースターになれたんだ」と地元の記者に聞かれ、「僕は昔からヒットを1本1本積み重ねることだけを考えてきた」と応じた。「イチローさんでもそう思われているんだと。地元が神戸グリーンスタジアム(現・ほっともっとフィールド神戸)に近かったので昔から憧れのアスリートだった。小さな目標をクリアすることでストレスが解消され、次の仕事へのモチベーションになる」と大きな刺激を受けた。

 ストレスへの向き合い方は取材現場でヒントをつかむことが多いという。メジャーリーグ取材で福留孝介外野手(40)に取材した時だった。「挫折したことありますか?」と聞くと返ってきた言葉が新鮮だった。「挫折は挫折だと思った瞬間に挫折になります。乗り越えるべきハードルであって超えたら新しい自分に会えると考えたらどうですかと。だから僕は挫折したことがありません」。誰にでも失敗はある。問題はその失敗で落ち込んで終わりにするのではなく、次の成功の糧にできるかどうか。田中アナウンサーは準備に最善を尽くす。野球の生中継に合わせて作る綿密な資料は1試合のために2か月以上かかる。首脳陣、選手のデータだけでなく、実際に取材して受けた印象、仕草や表情が細かく書き込まれている。「これを作るのは凄いストレスですよ。試合で一切使わない展開かもしれない。でも実況席に座って失敗はできない。座るのが怖い時もある。でそれを乗り越えた時に大きなものが待っていると思って資料を作っています」と信念を口にした。

 2年後の2020年には東京五輪という大きなイベントがある。だが、地に足がついたスタンスはぶれない。「取材を組み立ててて言葉を選んで視聴者にどう伝えていくか。これからも小さな目標を1つ1つクリアして1日1日を積み重ねていきたい。それが侍ジャパン、サッカーW杯、東京五輪につながると思います」。小さなハードルを丁寧に乗り越えた先に大きな目標がある。ヒリヒリする緊張感を活力にして、今日も現場の最前線で視聴者にニュースを伝える。


■編集部からのお知らせ
3月7日に発売の雑誌「CoCoKARAnext」では読売ジャイアンツ・菅野智之投手のインタビューの他、プロ野球選手に学ぶ仕事術などストレスフルな時期を乗り越える情報を掲載。

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

[文/構成:ココカラネクスト編集部 平尾類]

田中 大貴 (たなか・だいき)

1980年4月28日、兵庫県小野市生まれの37歳。小野高では2年から4番で打線の主軸を担った。巨人・高橋由伸監督にあこがれてか慶應義塾大学 へ。4年春に3本塁打でタイトルを獲得。フジテレビ入社後は主に報道・情報番組とスポーツを担当。「とくダネ!」「すぽると!」ではバンクーバー五輪、第2回WBC、北京五輪野球アジア予選、リオ五輪キャスターなど様々なスポーツイベントを現地からリポートした。現在もスポーツニュース番組「スポーツLIFE HERO’」で土曜担当キャスターを務めるなど多くの番組で活躍。

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