正捕手として日本を代表する技術力を持っていた山本(右)。そんな先輩の背中を必死に追っていた松尾(左)にとって、今回のトレードは小さくない衝撃だった(C)産経新聞社
目の色が変わった高卒4年目の逸材捕手
その一報は、あまりにも突然だった。
5月12日、山本祐大がソフトバンクにトレードされた。打線のクリーンアップも任せられる打力の持ち主であり、守備面でも投手陣の信頼を勝ち得ていた扇の要の移籍は、ベイスターズ内でも動揺は隠せなかった。しかし、ペナントレースは止まらない。もちろん現場が立ち止まるわけにはいかなかった。
【動画】これぞ「ハマの未来」 ドラ1の逸材・松尾汐恩が見せた鮮やかヒット
「突然だったので、もちろんびっくりしましたよ。でも、去る形になったところはもう変えられないので、いる選手、いける選手で試合になるように、選手に頑張ってもらうしかないと思います。今いる戦力で何が最適解かっていうのをしっかりと考えながらやっています」
チームの作戦面を司るベンチコーチの靏岡賢二郎は冷静に、かつ強い覚悟を滲ませた。
主戦級の捕手が去った。ただ、急転直下の移籍劇は、高卒4年目の松尾汐恩にとってはターニングポイントとなった。巡ってきた“主戦”としての重責によって21歳の姿勢にも変化が見られた。
「祐大がトレードで球団を去る形になったんですけど、その日から目の色を変えて試合に入ってくれている。野球への入り方、試合の入り方が、やっぱり主戦で出るようになってから、より集中力を感じることが多々あります。人一倍悔しがったりしていますしね」
靏岡の言葉からも、チーム内で松尾に対する期待は明らか。それに比例して、プレッシャーも高まるケースでもある。
「今は気苦労もあるでしょうし、精神的な疲れもあると思うんですけど、そういうとこは一切見せず、言い訳にもせず、本人は一生懸命頑張ってるところです。汐恩の中で大きなターニングポイントだと感じてます」
重圧も力に変える時と信じ、ゲームに挑んでいる。かねてからのストロングポイントであった打撃への期待も現在は控えめで、打順も8番に据えられている。「バッティング第一というよりは、やっぱりマスクをかぶることに集中してほしい」という首脳陣の明確な意図がある。
まずは守りから――。チームの方針に応えるように、松尾はグラウンド上での所作やアクションを意識的に大きくし、投手陣を引っ張ろうという必死さが見える。
「細かいところかもしれないですけど、そのワンプレーで点入るのか、入らないのか、長打になるのか、シングルで抑えられるのかっていうところも変わってくると思う。配球は試合前のプランと、試合中に体感して変えるものがあるのですが、ピッチャーを引っ張る部分はいつでもできること。いま一生懸命取り組んでいることを、どんな試合でも意識して、力を発揮してほしいなと思います」