センバツ優勝投手がお茶販売のスペシャリストに
「いらっしゃいませー!お茶はいかがですか」。気温3度と底冷えする寒さの中、京急上大岡駅の改札を抜けると、お茶を店頭販売する大きな声が響いた。声の主は「下窪勲製茶」(本社・鹿児島県南九州市)の社員として働く下窪陽介(39)だ。「鹿児島に住んでいますが、関東を中心に催事で一か月の半分は全国を回ります。お客さんが試飲しておいしいと笑って頂いた時が一番うれしいです」。
96年に鹿児島実業のエースで春のセンバツに出場して県勢初の全国制覇を達成。日大、日本通運を経て06年大学生・社会人ドラフト5位で横浜(現DeNA)に入団し、新人の07年に79試合出場で打率・277と活躍した。10年に退団後はサラリーマン生活を経験し、15年1月から「高校から寮生活で外に出てから家族に迷惑ばかりをかけてきた。恩返しをしたい」と祖父・勲さんが設立した創業46年の同社で働いている。
同社の知覧茶「やぶきた」は17年に農林水産大臣省を受賞した銘茶。ビタミンCやカテキンを多く含んでいることから、近年では野球の強豪校から同社のお茶への発注が増えている。催事でのお茶づくりで最も難しいのはマニュアルがないことだという。「1年は試行錯誤しましたね。品種によっても茶葉の量やお湯の温度が違う。渋くてコクがあるのが好きな方もいれば、飲み慣れていなければまろやかなほうがいい。お客さんとのコミュニケーションは大事にしています」。デパートや店頭販売は同業他社と並ぶことも珍しくないが、「うちのお茶に絶対の自信がある。むしろ飲み比べてください」と来場客に話しかける。下窪が販売する時に売り上げが伸びるのは地道な作業と努力が実を結んでいる証だ。
1年に4度の茶積みの時期には午前7時から深夜12時を回るまで茶葉を摘み取る。茶樹の勢いを生かした成長点でのハサミ入れは神経を使う。作業を手伝う下窪は「親父(和幸さん)や兄貴(健一郎さん)、従業員が頑張っている姿を見ている。日本一おいしいと思っているのでそれを一人でもお客様に伝えたい」と力を込める。高校野球で頂点に立った男は新たな生きがいを胸に全国を飛び回る。
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〔文/構成:ココカラネクスト編集部 〕