井上尚弥がこだわった勝利の追求 「相性最悪」と認める中谷潤人との苦闘の裏にあった怪物の“計算”「僕のボクシング人生はここがゴールではない」

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絶対王者としての意地を見せつけ、4本のベルトを守り抜いた井上。その強さはやはり異次元だった(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

「まったく違う重圧」を背負った井上の次なる構想は――

 井上も苦しい局面ないわけではなかった。

 1ラウンド目から中間距離を保ちながらカウンターを狙い続けた中谷は「学ぶ力が強い」と虎視眈々と王者の隙に自慢の左を打ち込む機会を伺った。相手の打ち終わりを狙い続ける28歳の戦いぶりは、他でもない井上が「(中谷は)高度な技術も備えていた」と驚く水準だった。

 ただ、互いに有効打がないまま中盤までもつれ込む試合展開の中でも、井上、そして陣営にも焦りの色はなかった。「想定内でした」という本人の言葉からもそれは明白だ。実際、1ラウンドから4ラウンド目まではジャッジ全員がポイントを王者側につけていた。

 自ら優位に立ったポイント状況を「陣営と確認しながら戦っていた」という井上は、「8、9、10ラウンド辺りは少し捨ててもいいのかな」と判断。「自分がポイントを取るというか、少しポイントを譲ってもいいかなと思って戦っていた」と冷静に勝負所を見極めていた。

 それは終始、「一発は気を付けろよ」とやはり冷静に指示を送っていた真吾トレーナーも同様だった。「中谷選手はパンチが当てられなかった。こちらが空間を支配していた」とポイント勝負になるなら負けないというような自負はあった。

 もっとも、結果的に“勝負”を決定的なものにしたのは、井上の一撃だった。

 11回、左と右のワンツーを打ち終わった刹那に繰り出した左のアッパーが中谷の左目を破壊した。常に顔面周りで堅く固められていた右ガードがわずかに崩れた一瞬“隙を、見逃さなかった。

 下からスッと伸び上がった強烈な一撃をもろに受けた中谷は、左目をあけていられなくなり、趨勢はモンスターに傾いた。この時、相手に生じた“弱点”を徹底的に突くように、右からの攻撃を集中させた井上のたたずまいは、まさに勝負師。無慈悲だが、世界の名だたる猛者たちを相手にしてきたからこその強さがあった。

「自分も33歳になって、日本人でランキングの下からあがってきた選手と戦うというのは負けられない気持ちが今までの試合とは違う。重圧や、そういう雰囲気があったので、すごく自分のなかで張り詰めた5月2日までだった。ひとまず勝ててホッとしてます」

 試合後、本音とも取れる言葉を漏らした井上の目尻には中谷のパンチによって出来たであろう小さなアザがいくつかあった。ここ数戦は、ほとんど無傷と言えるような顔つきで勝利会見に出てきていただけに、いかに激闘であったかを物語る傷にも見えた。

「まったく違う重圧」を背負った中谷との激闘を制し、早くも世間は次戦に目を向けている。一部報道では、4階級制覇を目指す3団体統一スーパーフライ級王者ジェシー・ロドリゲス(米国)との“ドリームマッチ構想”も伝えられた。

 4月6日のTikTokライブ配信内で、「中谷戦と、もうひとつやりたいなと思っている試合がある」と語った相手が、新進気鋭の26歳ではないかと予測する声は飛び交っていた。ただ、「今、自分の口から言えることはない」と言う井上は、「僕の中では白紙です」と多くは語らなかった。

 最強挑戦者を高度な技術戦の末に破り、また一つ価値を高めた井上。「僕のボクシング人生はここがゴールではない」という“モンスター伝説”は、まだまだ終わりは見えない。

[取材/文:羽澄凜太郎]

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