中谷潤人との激闘が生んだ「価値」 井上尚弥のPFP1位の長期政権化を米リング誌編集長が断言する理由「イノウエを引きずり下ろす選手は現れない」【現地発】
“世界1位”の座に就いてもなお、覇道を突き進む井上。そのキャリアは米識者たちを唸らせる(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
欧米メディアを感心させた王道を征くマッチメイク
キャリア終盤のテレンス・“バド”・クロフォード(アメリカ)も同じ時期に実績を積み重ねたエロール・スペンス(アメリカ)との4冠戦こそ懸命に追いかけたものの、9歳も若いジャロン・“ブーツ”・エニス(アメリカ)との対戦には興味を示さなかった。クロフォード対エニスは成立していれば、前者が断然優位だっただろうが、それでもベテラン王者が新旧対決よりも上の階級での戦いに戦場を求めたのは象徴的だった。
現役にしてレジェンド”の域に差し掛かったベテラン王者が後輩チャンピオンに敗れれば、それが公平かどうかは別の話として、積み上げてきた実績にまで疑問が呈されかねない。特に相手が同胞であれば、なおさら失うものは大きい。
井上に関しても、スーパーバンタム級ではすでに4団体のベルトを統一し、“最強挑戦者”と目されたムロジョン・“MJ”・アフマダリエフ(ウズベキスタン)も下していた。この階級での仕事はやり終えていたのだから、中谷を待たずにフェザー級に上げてもよかったのだろう。
しかし――。常に“ストロングスタイル”を貫くモンスターは、敢然と中谷の挑戦を受け、そんな王道を征くマッチメイクは欧米のメディアを感心させた。そして、実際の試合でも、下の階級出身ながら自身よりも遥かに身体の大きな後輩王者に年輪の差を見せつけた。そんな姿は貫禄十分。『The Ring Magazine』のPFP選定委員にも「誰よりも1位にふさわしい」と感じさせるに十分だったのだ。
井上は過去2度、PFPで1位に立っているが、その際は直後にオレクサンデル・ウシク(ウクライナ)が強敵を下したがゆえに“短命王座”に終わった。ただ、今回は“長期政権”が有力視されている。
なぜなら、ウシクは5月23日にボクシングの実績に乏しいキックボクサーのリコ・バンホーベンに大苦戦(11回逆転KO勝ち)し、クロフォードはすでに現役を引退した。後継ぎと目されるシャクール・スティーブンソン、ジェシー・“バム”・ロドリゲス(ともにアメリカ)もまだ井上と比べて実績不足。そんな状況下で、フィッシャー編集長の言葉通り、少なくとも2026年中はモンスターがNo.1であり続けるのだろう。
今の井上はキャリア終盤にいるのかもしれない。だが、世界的な評価という意味では最盛期である。コンスタントに強敵と戦い、他のベテラン王者なら尻込みしかねない同国人の後輩王者との決戦も勝ち抜くことで地位を確立させた。
世界が恐れるモンスターは、本当にさまざまな意味で現代ボクシングのアンチテーゼであり、例外的な存在。だからこそ、軽量級王者でありながらここまで到達できたのに違いあるまい。
[取材・文:杉浦大介]
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