「別人になるかもしれない」――ネリの減量成功は奇跡とすら 井上尚弥との東京D決戦に挑む悪童に見た“死ぬ覚悟”
井上尚弥とのフェイスオフも堂々とこなし、計量も成功させたネリ。(C)CoCoKARAnext
まさに「ネリ狂騒曲」――。翌日に井上尚弥(大橋)とのボクシング世界スーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチを行う挑戦者ルイス・ネリ(メキシコ)の前日計量は、そんな物々しい雰囲気の中で進められた。
29歳のメキシカンの一挙手一投足を記者陣のみならず、関係者たちも固唾をのんで見守った。無理もない。2018年にWBC世界バンタム級タイトルマッチとして山中慎介と対戦したネリは1.36キロもオーバー。王座から失墜するとともに、日本ボクシングコミッション(JBC)から日本での活動停止とライセンス申請の剥奪という処分を科されていた。
【動画】関係者たちも「怖かった」と漏らす睨み合い! 井上とネリのフェイスオフ
はたして今回の結果は54.8キロ。リミットを500グラムも下回った。これには会場のネリ陣営から大きな拍手が起きるとともに、記者陣からは「落としすぎじゃないか」という声も漏れた。井上陣営の大橋秀行会長も「ある意味、減量失敗じゃないかと思いましたけどね」と思わずジョークを口にしたほどだ。関係者によると、計量直後こそ舞台裏でコーラをがぶ飲みし、ショートケーキを2個、さらにフラペチーノに、桃の缶詰をドカ食い。早くもリカバリー(!?)に徹する振る舞いを見せていたという。
もっとも、周囲の喧騒をよそに、決戦に向けた緊張感を高め、かつてないほどの集中力を保っているようにも見えた。フェイスオフでは20秒間に渡って井上との視殺戦を展開。多くのメディアで殺気立っていた王者の振る舞いがクローズアップされたが、まんじりともしなかったネリのたたずまいも印象的だった。
「死を覚悟して戦いに挑む。勝者になると確信している」
前日の会見でそう強い言葉を口にしたネリ。会見中にガムを噛み、ふてぶてしい態度こそ見せたが、終了間際にはサングラスを外し、自ら井上に手を差し出してガッチリと握手。そうした振る舞いに、9年前のような粗暴さは見られない。
ともすれば、「悪童らしくない」振る舞いと言える。だが、今回の一戦で10億円以上とも言われる莫大なファイトマネーの獲得が見込まれているネリだけに、淡々とした行動の数々は「何としても試合を成立させなければいけない」という想いの表れなのかもしれない。
実際、ここまでの調整ぶりは見事だ。今年1月には故郷ティファナを離れ、米テキサス州で強化合宿を開始したネリは、ゴングまで2週間となった今月21日に来日。日本の環境に馴染むべく、準備を重ねてきた。
こうした準備そのものが以前のネリでは考えられなかった。