井上拓真はなぜ勝てたのか 那須川天心に食らった一撃を叱った父からの“本音” 王者はあの時、何を見ていたのか?
那須川にダウンを取られながらも目は死なず。拓真は誰よりもリングで冷静だった(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
セコンドに戻って悟った父の感情
この攻防時の心境を拓真はこう振り返っている。
「とりあえずダウンをしてしまったので、それは絶対に回復しないといけないのでロープ際で休みながらディフェンスしていました。あのロープ際って言うのは自分の得意なパターンなので。自分が集中した時のロープ際は絶対にもらわない。集中したら絶対にもらわないなっていうのがある。自分はそこで回復に努めました」
何とか耐え抜いた7ラウンド終了後、セコンドに戻った時の真吾さんの顔は明らかに不満げだった。そして「気を抜いたところだからなッ!」と強い口調で灸を据えられた。その瞬間に拓真は、「自分もすごく悔しかった。倒し返すぐらいの気持ちで行けよ」と言う父の感情を悟った。
「(ダウンシーンは)もうフラッシュダウンみたいな感じ。一瞬の気の緩みというか、そこを許してしまった自分が悪かった」
「父の『やり返して来い』って。それと自分がダウン取られてるっていうのも自分で分かってるし、でもしっかりポイントピックアップしていかなきゃいけないってのも分かってるんで、それで(8ラウンドは)出た」
父の叱咤に気が引き締まり、一気にマインドゲームに那須川を引き込んだ。8ラウンド終了時の公開採点でも2-1とリードした拓真は、勝つには「倒すしかない」と言わんばかりに焦燥感に駆られ、前に出るチャレンジャーを俊敏な動きとバリエーション豊富なパンチで翻弄し続けた。
この時、那須川がどれだけ王者陣営の術中にハマっていたかは、「自分の中では本当、負けた気はしていないんですよ。本当に『ボクシングで負けた』という感じ」と漏らした当人の言葉からも明確である。
世間の耳目を集めた注目のリマッチ。勝敗を左右したのは、採点の行方を頭に入れながらのクレバーなスタイルを徹底し続けた王者の“経験”がモノを言った。
[取材・文/構成:羽澄凜太郎]
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